iPhoneの成功と凋落にみる商品開発の正しいフローチャート

プロダクトアウト」という言葉があります。商品先行の開発で、メーカーがやりたいこと・新しい技術のお披露目を目的とした商品開発のことをさします。
よくプロダクトアウトの対立軸で語られるのが「マーケットイン」で、こちらは顧客・ユーザー目線で「こうだったらいいのに」という声を取り入れた、「顧客が求める商品開発」のことを指します。

日本においては1990年台から2000年にかけて、このマーケットインの考え方が広くメーカーに伝播しました。
食品、アパレル、家電、車などさまざまなメーカーが「お客様の声を聞いて、本当に必要とされる商品を売ろう」と考えた時代です。(その背景には、バブルが崩壊し売れ行きが先細った各企業の小さな悲鳴があったのでしょうが)

この時代の論調は、メーカーは独りよがりな商品や技術を誇示するだけの商品を作っていてはいけない、という「プロダクトアウト」が悪であり「マーケットイン」こそ正義である、というものでした。
もちろん、本来的にこの2つの考え方は対立軸にはなく、車輪の両輪として機能すべきものでした。しかしながら、インターネットの普及とともに匿名で書き込めるサイトなどでは「メーカーの独りよがり」「顧客の声を無視するな」などの意見が聞かれるようになり、次第にメーカーサイドもそれらを傍観できなくなった、という側面もあったのではないでしょうか。

ちなみにこの「マーケットインこそ正義・プロダクトアウトは悪」という考え方は日本独自のもののようで、欧米では「商品開発は技術者の自己表現!なにが悪い!」と言わんばかりにプロダクトアウト先行です。ユーザーも、素直に技術を称賛、あるいは改善点を指摘します。このあたりは「クレームの文化」とでもいうべき土壌があるのでしょうね。

いま2019年になり、「マーケットイン」つまり顧客の声を聞いた商品開発という考えが果たして合っていたのかを振り返ると、残念ながら決して正しかったとは言えないようです。
上述の通り「マーケットイン」偏重の考え方は日本の独特なもののようですから、正しかったとすれば日本の企業・商品がもっと市場に溢れかえっていたでしょうし、世界の企業もマーケットインに興味を示したはずです。
しかし、本当に残念ながらですが、商品市場各分野において日本が占めるシェアを見る限り、少なくとも世界に対して圧倒的優位という状況にはなっていないですね。

プロダクトアウト型の商品開発と相性が良いのは、先進技術の恩恵が大きく受けられる情報機器や家電です。ユーザーが想像すらしなかった、先進的なアイテムを具現化することがプロダクトアウトの一番の醍醐味といえるでしょう。
例えば、皆さんの手元にも「プロダクトアウト」の代表的な商品があります。

そう、APPLE社のiPhoneです。

iPhoneは、誰もイメージできなかった携帯電話の新しいスタイルを、最新技術によって実現したものと言えます。さらに後年、スマートフォン開発で大きく遅れをとる日本の携帯メーカーに対し、開発者のスティーブ・ジョブスは「消費者に、何が欲しいかを聞いてそれを与えるだけではいけない。製品をデザインするのはとても難しい。多くの場合、人は形にして見せて貰うまで自分は何が欲しいのかわからないものだ。」と論じています。

スティーブ・ジョブスの発想力と、それを妥協なく実現したapple社の技術力には異論を挟む余地がありません。いまやapple社は世界の企業ブランド価値においてgoogleに次ぐ2位という位置につけています。
特に日本は、単純な商品の魅力だけでなく独特な携帯キャリアのあり方から、世界でも有数のiPhone所有率を誇る国となりました。

しかし、そのiPhoneの牙城が、2018年後半になり大きく揺らいでいます。
2018年9月にMMD研究所が発表したモバイルデバイスシェア調査で、はじめてandroidのシェアがiPhoneを上回ったのです。

日本におけるiPhoneの位置づけは、「ザ・スタンダード」と呼ぶにふさわしいものでした。10代の若者の間では、iPhoneであることが共通言語となっており、androidは仲間はずれになるから持ちたくない!とまで言われたものです。

そんなiPhoneが日本でのシェアをじわじわと失っていったのには、大きく3つの理由が考えられます。
①総務省の通達で端末代の大きな減額ができなくなり、android端末との金額的優位が失われた。
②端末が徐々に大型化し、性能に興味のないライト層から「持ちにくい(=使いにくい)」という声が上がるようになった。
③海外の優秀なandroid端末が入ってくるようになり、androidのシェアが緩やかに増加した結果、相対的にシェアを落とした。

もちろん、景気の問題や双方のOSの問題など、様々な要素が複雑に絡み合っての結果ではありますが、ここで注目したいのは②です。

日本では「端末が大きくなると持ちにくい」という声が多く聞かれました。日本人は欧米と比較しても小柄ですので、特に女性ユーザーからそのような意見が出ていました。
といっても、その「声」のほとんどは当のアップル社に届ける形ではなく、日常会話やSNSでつぶやかれるもの。日本企業ならエゴサーチ(自社や商品の名前で検索をかけ、どのような評判になっているかを調査するもの)によってそれらの声に気づき、耳を傾けたかもしれません。
しかし、先にお伝えしたようにapple社はプロダクトアウトの代表的な企業です。カスタマーの意見を受け、それを商品開発に活かすような土壌がありません。もちろん本来はユーザーの意見を吸い上げる機構はあるのですが、海外企業なので英語の出来ない多くの日本人はそこにたどり着く前に脱落してしまうということもあります。

プロダクトアウト型開発によって市場を席巻したプロダクトが、マーケットインをおろそかにしたことでシェアを失っていくという構図が、apple社とiPhoneに今起こっていることの一側面にあるように見えます。

みなさんの会社、プロダクトはいかがでしょうか。マーケットインの開発には、ユーザーの声をすい上げる機構が必要です。ママ向け・乳幼児向けの商品なら、弊社のママプラスがきっとお役に立てますよ。